AI時代に、エンジニアとしてのキャリアをどう設計するか。
これは私自身が最近、真剣に考えているテーマです。
ChatGPTやClaudeが当たり前になり、Claude Codeで3日でアプリが上がる時代に、自分の専門領域がいつまで通用するのか。同じことを考えている方も多いと思います。
今回は、私の思考のプロセスをそのまま記事にまとめます。結論を急ぐ記事ではありません。
これからキャリアを考える方にとっての判断軸の一例として、また、数年後に私自身がこの記事を読み返したときに「当時はこう考えていた」と分かるための備忘録として、整理してみます。
特定の業界や企業を否定する話でも、特定の選択を絶対視する話でもありません。AI時代に「自分のキャリアをどう考えるか」という思考の枠組みについて、現時点での私の整理を共有します。
私のキャリアの起点 — 海、ロボット、画像認識
記事の前提として、私自身がどういう立ち位置で書いているかを共有しておきます。
私は1997年に東京商船大学(現・東京海洋大学)に入学しました。交通電子機械工学課程に所属し、ロボット工学研究室で「水中でのステレオカメラを使った物体認識」を研究していました。今思えば、海・ロボット・画像認識という、現在の私の三本柱がすでにここで揃っていたことになります。
卒業後はSIerに入り、17年間、金融システム(COBOL)を中心とした受託開発の世界にいました。AIとは縁遠い、堅い業務系システムの現場です。
転機になったのは、SIerの後半に入った頃でした。業務とは別に、個人活動として「AI coordinator」を立ち上げ、AIロボティクスの分野を独学で始めたのです。深層学習が一気に実用フェーズに入ろうとしていた時期で、副業的に画像認識やロボット制御を触り始めたのが、いまの仕事のすべての起点になっています。
その後、大学発のAIスタートアップに移り、ロボット開発室長・画像解析室長・動画解析室長を歴任。大手通信グループで自然言語処理パッケージのプロダクトリーダーを務めた後、現在は農業AIロボティクスのスタートアップで執行役員CTOとして、AIを使った収穫ロボットの開発に取り組んでいます。
AIの分野を本格的にやるようになって、ちょうど10年になります。
つまり私は、海(海洋大学)→ SIer 17年 → AIロボティクスを独学で起動 → 一次産業(農業)へという、変則的な経路を辿ってきた人間です。一次産業を実装する側で見てきた経験は、自分の中では珍しい立ち位置だと感じています。この記事は、その立ち位置から見える景色をまとめるものです。
「AIに食われるエンジニア」議論をどう考えるか
AI時代のエンジニアの存続をめぐって、よく耳にする問いがあります。
「Claude Codeで3日でアプリが作れる時代に、エンジニアという職業は成立するのか」
私の答えは、半分そうで、半分違う、です。
消えていく領域
単純なCRUDシステムの実装、業務システムの仕様書翻訳、受託開発の中下流、オフショア開発。これらは戻ってきません。私自身、Claude Codeで3日でAzureにアプリを公開できた事実から、肌で感じています。
一方で、伸びている領域もある
ドメイン知識を持ってAIを実装できる人。「何を作るべきか」を判断できる人。既存の業務システムと新規のAI実装を繋げられる人。物理世界・規制業種・不確実性の高い領域で動ける人。
ここで効いてくるのが、「技術が安くなるほど、その技術を使う総量はむしろ増える」という現象です。実際、内製化を始める非IT企業がいま急増していて、需要先が「ソフトウェア専業企業」から「ドメイン企業の内製チーム」に移動しているだけで、総需要はむしろ拡大しています。
つまり「やっていけない」のは組織に雇われて指示通りコードを書くソフトウェアエンジニアで、「問題を定義して解決まで持っていける人」の価値はむしろ上がっています。これが現時点の私の見立てです。
これから10年で起きる構造変化
ただし、これから10年で本当に厳しい構造変化も起きます。新卒・若手の参入路が細くなり、業界全体の世代分布が歪む可能性が高い。中堅層の単価高止まりも崩れる方向です。「雇われエンジニアとしてのキャリアパス」自体が、プロジェクト単位・問題解決単位の働き方にシフトしていきます。
「日本」という前提から考え直す
個人のキャリアを考えるとき、もう一つ前提として確認しておきたい論点があります。それは「日本という国がこれから何で食っていくのか」という問いです。
正直に書きます。インターネットプラットフォーム、消費者エレクトロニクス、メモリ、最先端の大規模AIモデル(ChatGPTやClaudeのような領域)、汎用ヒューマノイドロボット。これらの領域で日本が世界のトップに戻ることは、構造的にもう難しい状況です。
ただし、まだ勝ち続けている領域もあります。
半導体材料、半導体製造装置、イメージセンサー、産業用ロボット、FA・工場自動化全般。これらの領域は派手ではありませんが、「目立たないけど代替不能」な物理層で、日本企業が世界シェアを握り続けています。
日本の現実的な未来像は、たぶんスイスやドイツに近い「特化型ミドルウェア大国」です。プラットフォームでは勝てないけれど、産業の物理的ボトルネック(材料・装置・特化ロボット・専門部品)を握り続ける。GDPは伸びないかもしれませんが、国民一人あたりの豊かさは維持できる。そのポジションは、現実的に取れる選択肢として存在します。
ここから個人キャリアの観点で何が言えるか。私が考えているのは、国レベルで追い風がある領域に張る方が、個人の戦略も長期で持つ、ということです。逆向きの風の中で頑張るより、追い風の方向に船を出した方が、同じ努力で進める距離が違います。
農業と海事の風向きの違い — 一次産業を実装側で見てきて
私は農業ロボティクスを実装側で見てきました。その経験から、ひとつ言えることがあります。
日本の農業が抱える構造的な逆風
日本の農業は、産業として構造的に厳しい状況にあります。
平均農地3ha(米国は180ha)、山地70%、農家平均年齢68歳超、自給率38%、国際的に高い生産コスト。地理(規模・気候)・人口(担い手)・政策・需要(国内縮小)、すべての風が逆向きです。プレミアム果物・和牛・日本酒の輸出ニッチは成立しますが、国全体を支える産業サイズには至りません。
これは農業に関わる人や企業を否定する話では一切ありません。実際、私が関わっている現場でも、JAや自治体と連携して農業AIの実装を進めていて、確かな価値が生まれています。個別の取り組みには大きな意味があります。
ただ、「個人がドメインを選ぶ」という観点で、5年・10年単位の追い風がどこに吹いているかを冷静に見ると、別の風景が見えます。
海事 — 追い風が吹いている領域
例えば、海事(マリタイム)分野です。
日本は四方を海に囲まれた島国で、EEZ(排他的経済水域)の面積は世界6位。海運大手は世界トップクラス。造船業はピーク時から落ちましたが、それでもまだ世界3位。海上自衛隊・海上保安庁の予算は2022年以降、爆発的に増えています。
いま国の予算が動いている領域
具体的に、いま海洋分野でどこに国の予算が動いているかを書くと、
- 防衛予算の海上無人アセット(SHIELD構想)に2026年度1,001億円(参考:令和8年度防衛予算案の解説)
- 浮体式洋上風力発電が2040年に30〜45GW目標、2025年6月のEEZ法改正で本格展開(参考:経産省・国交省 洋上風力の政策的位置付け、改正法成立報道)
- 自律航行船(MASS:Maritime Autonomous Surface Ships)の国際規制が2030年頃に整う前夜
- 海底資源・自律型無人探査機(AUV)(参考:防衛装備庁 長期運用型UUV 展示資料)
- 水産業のスマート化
施策全体の方針は、第4期海洋基本計画(内閣府)で省庁横断の枠組みとして整理されています。国の予算が動いている、規制が整いつつある、投資が伸びている——この三つが同時に重なっているのが、いまの海洋分野の状況です。
歴史的にも一貫した海洋国家パターン
歴史的に見ても、日本は400年間継続して海洋国家でした。江戸期の北前船、明治の海軍近代化、戦前の世界3位海軍、戦後の造船覇権。一時的に中韓に造船を譲りましたが、海運・海事サービスはずっと世界トップ層を維持しています。海事は日本にとって、断絶ではなく一貫した国家パターンです。
繰り返しになりますが、これは「農業 vs 海事」のどちらが正しいかという話ではありません。ドメインを選ぶ思考軸そのものを、自分の経験を題材にして共有しているだけです。地理的優位性、歴史的連続性、国家戦略との整合、国際情勢の方向。この4つの軸で見たときに、自分のキャリアの追い風はどこに吹いているかを考えてみる、ということです。
国レベルの勝ち筋と個人の稼ぎは別物
ここで、よく混同される論点を整理しておきます。
「ある領域が国レベルで勝ち筋がある = その領域で個人が稼げる」という錯覚です。これは違います。
例えば、半導体材料は日本の国レベルでの強みですが、関連メーカーで働くエンジニアの個人収入は、月給と賞与の範囲内です。米国IT産業も国レベルでは圧倒的に勝っていますが、普通のエンジニアは中流階級で、富を作っているのは早期エクイティを持った創業者・初期社員・投資家だけです。ノルウェーの海事テックも世界をリードしていますが、個人で大きく稼いでいるのは創業者と早期参画者です。
つまり、国の勝ち筋 ≠ 個人が金になる、です。ここを混同すると意思決定が歪みます。
個人の稼ぎを生む5つの抽出メカニズム
では、個人の稼ぎはどこから来るのか。私の整理だと、5つの抽出メカニズムがあります。
- エクイティ:創業 or 早期入社で株を持つ
- IP:書籍、講座、プロダクト、SaaS
- ブランド:コンテンツで認知を作って単価を上げる
- 海外顧客:円より強い通貨で稼ぐ
- 汎用コンサル/顧問:単価は中程度だが本数で積む
これらは全部、ドメインとは独立しています。海事でも農業でも、どっちでも稼げるし、どっちでも稼げない。「ドメインで稼ぐ」のではなく、「ドメインを背負って稼ぐ」が正確です。
では、ドメインは何のためにあるのか
ドメイン(専門領域)は、稼ぐエンジンではなく、差別化と希少性のレバーとして機能します。
具体的には、
- 顧問単価のプレミアム:「単なるAI顧問」より「特定産業に精通したAI顧問」の方が高単価を取れる
- エクイティ機会へのアクセス:そのドメインのスタートアップに早期参画する道筋ができる
- 政府予算・公募へのアクセス:特定省庁が動いているドメインの公募に乗れる
- コンテンツの差別化:発信が埋もれない、検索で見つけてもらえる
つまり、ドメインは「稼ぐエンジン」ではなく、単価と機会を底上げするレバーです。これを理解すると、「自分の専門領域をどこに置くか」の意思決定が、グッと冷静になります。
いま私が考えているキャリアの三層構造
ここまでの整理を踏まえて、私自身が今考えているキャリア設計の三層構造を共有します。
第一層:キャッシュエンジン
ドメイン非依存の汎用AI技術顧問。月額契約で複数社と継続伴走するモデル。これが安定収入の柱になります。
第二層:差別化レバー
ドメイン(農業ロボティクス・海事×AI)。一次産業を実装側で見てきた経験を、技術顧問業の単価と希少性に変換するためのレバーです。「単なるAIに詳しい人」ではなく「物理世界でAIを動かしてきた人」というポジションを確立します。
第三層:上振れの仕掛け
エクイティ参画(関連ベンチャーへの早期関与)、IP(書籍、教材、プロダクト)、コンテンツ(YouTube・記事・SNS)、別軸の事業(コンシューマー側でのAI活用 等)。これが将来的な飛躍の源泉です。
この三層を分けて設計すると、「自分は何で食って、何で差別化して、何で大きく勝つか」が整理できます。逆に、これらを混ぜたまま考えると、迷路に入ります。
「特定ドメインで稼ぐ」と「特定ドメインを背負う」を混ぜると、どちらも中途半端になりがちです。ドメインを背負ったまま、稼ぎは別ルートで作る。この分離が、独立技術者の生存戦略の鍵だと、私は考えています。
海洋大学のOBという足場 — 偶然ではない縁
ここで、自分の経歴を「断絶」ではなく「線」として読み直す話をします。
私のキャリアは、東京海洋大学(当時の東京商船大学)のロボット工学研究室から始まりました。「水中でのステレオカメラを使った物体認識」が卒研テーマでした。あの時から見ると、私はSIerで17年を過ごし、AIロボティクスを独学で始めて、農業AIにたどり着き、いまAI技術顧問としても活動しています。一見、てんでバラバラな経路です。
そして気づいたのです。いま日本で大きな投資が動いているのは、まさに海洋分野です。MASS、洋上風力、UUV(無人潜水機)、海洋安全保障、海事DX。これらの分野で、東京海洋大学は産業界・行政・教育研究をつなぐ制度的な橋渡しとして機能できる位置にあります。
私自身も最近、母校との接点を持ち直し、海事×AIの領域で挑戦できる道を模索しているところです。これは、農業から海への単純な「鞍替え」ではなく、自分のキャリアの線をつなぎ直す作業として、腑に落ちる感覚があります。
これは強引にこじつけているわけではなく、構造的に意味があります。東京海洋大学は、海運業界、国土交通省、海上保安庁との結びつきが伝統的に強い場所です。海事×AIの実装に取り組む人材は、生成AIのような熱い分野と比べると相対的に少なく、参入余地はまだ残っているように見えます。一次産業を実装側で見てきた経験は、海事領域でも応用が利く可能性があると、私自身は考えています。
つまり、自分の出発点に戻ることが、結果的にこれからの追い風に乗ることになる。これは設計したのではなく、後から線を結べた、というのが正確です。
これは私個人の話に見えるかもしれませんが、皆さんにも同じ作業ができます。自分のキャリアを断絶した点の集合ではなく、後から見ると意味のある線として読み直す。これはAI時代のキャリア設計で、意外と効くアプローチです。
AI時代にキャリアを考える5つの視点
ここまでの整理を、これからキャリアを考える方向けに、5つの視点としてまとめます。これは私自身の数年後への申し送り事項でもあります。
視点1:国レベルの勝ち筋と個人の稼ぎを区別する
混同すると意思決定が歪みます。国の追い風はあくまで「個人が乗りやすい風」であって、「個人がそのまま稼げる」ことを意味しません。マクロの追い風と、ミクロの稼ぎ方を、別々に設計します。
視点2:ドメインは「稼ぐエンジン」ではなく「差別化レバー」と捉える
特定領域への深い知識は、単価と機会を底上げするためにあります。それで直接稼ごうとすると、市場規模の限界にすぐぶつかります。ドメインを稼ぎの本体にせず、レバーとして使います。
視点3:キャッシュ・差別化・上振れの三層を分けて設計する
全部を一つの仕事に背負わせない。安定収入の柱、差別化のレバー、飛躍の仕掛け、を別々に持つことで、片方が転んでも倒れない構造になります。これは個人事業者にも、組織内の専門職にも当てはまる考え方です。
視点4:自分の経歴を「断絶」ではなく「線」として読み直す
過去にやってきたことは、無駄ではありません。一見つながりのない経験も、後から線を結ぶと意味が見えることがあります。今やっている仕事を、将来の自分のためのデータとして残しておく姿勢が大事です。
視点5:50代でも「複利が効く資産」を作る覚悟を持つ
残りの稼働時間を逆算すると、新しい柱を作れる回数は意外と少ない。だからこそ、毎年「複利が効くもの」(IP、ブランド、ネットワーク、エクイティ、関係資産)に少しずつでも投資する姿勢が重要です。今すぐ稼げなくても、数年後に効いてくる仕込みを止めないことです。
それでも残る不確実性と、AI時代の覚悟
ここまで構造的に整理してきましたが、最後に正直なことも書いておきます。
この整理が正しいかどうかは、数年後にならないと分かりません。海事への投資が本当に伸びるか、農業ロボティクスが思ったより速く立ち上がるか、ClaudeやGPTが次にどう進化するか、地政学がどう動くか。全部、今は確信を持って言えません。
ただ、不確実性の中で意思決定するためには、何らかの判断軸が必要です。判断軸なしの直感だけだと、後で振り返って「なぜあのとき自分はあの選択をしたのか」が再現できません。
だから私は、現時点での自分なりの整理を、こうやって言語化して残しておきます。数年後に間違っていたら、その時の自分が「ここで判断を間違えた」と分かる。それは前進の材料になります。
AI時代のキャリア設計は、絶対の正解がない世界での意思決定です。だからこそ、判断軸を明文化して残しておくことそのものが、長期的な再現性を生む、と私は考えています。
まとめ
- ソフトウェアエンジニアの未来:単純コーディング職は確実に縮むが、ドメイン×AI実装ができる「問題解決者」の需要はむしろ増えている。雇われエンジニアからプロジェクト単位の問題解決者への移行が進む。
- 日本の産業構造:インターネットや最先端の大規模AIモデルでの再起は構造的に難しいが、半導体材料・産業ロボティクス・海事・特化領域では「特化型ミドルウェア大国」として勝てる可能性が残っている。
- 国レベルの勝ち筋と個人の稼ぎは別物:混同しない。ドメインは稼ぎの「レバー」であって、「エンジン」ではない。
- キャリア設計は三層で分ける:キャッシュエンジン(汎用顧問業)・差別化レバー(ドメイン)・上振れ(エクイティ/IP/コンテンツ)。
- 自分の経歴を「線」で読み直す:海洋大学のロボット工学研究室で始まった「海・ロボット・画像認識」という出発点が、SIer 17年とAI 10年を経た今、改めて追い風の方向と一致している。これは自分にとって偶然ではない縁だと感じています。
数年後にこの記事を読み返したとき、「当時の自分はこう整理していたんだな」と分かる備忘録として残します。同時に、これからキャリアを考える方の判断軸の一例として、何かのヒントになれば嬉しいです。
「自分のキャリア戦略を整理したい」「会社の中での役割を考え直したい」「独立を検討しているが、何から手を付けるべきか整理したい」という方は、無料の30分オンライン診断で一緒に考えることもできます。判断軸を言語化することそのものが、長期戦の最初の一歩です。
この記事の内容について、現場で整理したい方へ
AI×IoTの技術顧問として、月額契約で継続伴走しています。PoC設計・技術判断・組織設計・ベンダー管理・実装支援まで、現場で動くまで一緒に進めます。受託開発(請負)ではありません。
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